西岩部屋おかみさんブログ

大相撲西岩部屋の備忘録として利用しています。【公式twitter】https://twitter.com/nishiiwabeyaです。

メロン

親方と力士たちが名古屋入りし、十日余り経過いたしました。
朝は稽古、夕方は筋力トレーニングと、名古屋場所に向け日々励んでいるようでございます。

こちら浅草は、梅雨明けし、夏本番を迎えました。
日々撮りためた力士たちの写真を整理しつつ、皆様に西岩部屋の様子をお伝えしてまいりたいと思います。




月日は遡ります。
5月24日、
メロンをたくさんいただきました。
この機会に力士たちとメロンを切る練習をしようと思い、夜のちゃんこの片付けが済んだ頃、大部屋のチャイムを鳴らしました。

その日の4人のちゃんこ番のうち、若藤岡だけが居ました。他のちゃんこ番の力士たちはコンビニへ洗剤を買いに行っていたり、屋上で洗濯物を干しているようです。

一人だけに教えるのもどうだろうかと思いましたが、ちゃんこ場の冷蔵庫から一つ一つメロンを出しながら、「デザートにメロンを切ろうと思うんだけど」と言うと、若藤岡がちゃんこ場にすっと入ってきてくれました。

最初に私が切ります。
若藤岡は手を後ろに組み、口を尖らせながら、瞬きもせず、じっと見ています。

やってみてください、と包丁を渡しました。
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何個も切るうちに、手付きも慣れ、とても上手になりました。

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「この次は、藤岡くんがみんなに切り方を教えてあげてね」と言うと、恥ずかしそうに笑っていました。


6月8日
またメロンがたくさん届きました。
さあ、
若藤岡がその日のちゃんこ番の力士たちに教えます。
先輩、後輩は関係なく、切り方を覚えた若藤岡に皆が習います。

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それから、若藤岡はまた別の日にも皆んなのために一人でメロンを切ってくれました。





そして、6月11日の昼下がり。
若藤岡が親方の元にやってきました。
「先生が今、浅草まで来ているそうなんです。
部屋に寄っていただいてもいいですか?」と。

"先生"とは、若藤岡が小学5年生から通っていた相撲道場の先生のことです。
元力士で、西岩親方にとりまして、一門の先輩にあたるかたです。
親方もとても嬉しそうに「もちろん来ていただいて」と若藤岡に伝えます。

雨がしとしと降る中、先生が西岩部屋へ到着されました。
自宅階の和室に親方、先生、若藤岡が座ります。
若藤岡は普段から先生が大好きだと言っています。
その先生が自分の様子を見に部屋を訪ねてくださったという嬉しさと緊張で顔を赤らめています。


私は、先日、ちゃんこ場で若藤岡に掛けた言葉を思い出しました。
" 出来るようになって損なことなんて何もないんだよ。今度お客さんが来たときに「メロン切ってください」ってお願いしたら、藤岡くんはもう一人で出来るね "


神様がどこかで見てくれているかのようにその日がやってきました。


「先生、メロンお召し上がりになりませんか?」
私は、和室にまな板と包丁とメロンを運び、若藤岡の前にそっと置きました。

そこで、
若藤岡がメロンを切れるようになったこと、
切り方をみんなに教えたこと、
最近の一部始終を親方が先生に話しました。

先生は驚いていらっしゃいました。
そして諭すように
「耕司、相撲部屋は、相撲だけ頑張っても駄目なんだぞ。相撲以外のことも出来るようになっていってくれたら先生は嬉しい。」と。

若藤岡はゆっくり一生懸命、メロンを切りました。
ちゃんこ場と和室では勝手が違います。きっと切りにくかったでしょう。

若藤岡が先生にメロンを差し出します。
先生はそのメロンを爪楊枝で一つ、二つと刺し、口いっぱいに頬張り、若藤岡の目を見て笑顔でこう仰いました。


「耕司!先生は、こんなにうまいメロンを食べたのは生まれて初めてだ。
今まで夕張メロンやいろんな有名なメロンを食べたけど、耕司が切ってくれたメロンが一番うまいぞ!」


若藤岡は謙虚にはにかんでいました。


何でも真面目に取り組んでいるからこそ、いざという時、どこを切り取っても日頃の成果が出るのです。
大好きな先生が会いに来てくれて本当によかったですね。


15歳、これからまだまだ成長します。