西岩部屋おかみさんブログ

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若中谷、若松永、若小菅、若藤岡

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若中谷
手先が器用です。
部屋に組み立て式の傘立てが届いた時も、若中谷が器用に組み立ててくれました。
もうできたの?と驚くほどの早さでした。
どうやらお母様のお話では、小さい頃からプラモデルを作ったりすることが得意だったようです。
字も書いても綺麗ですし、絵を描いても上手です。
集中力もとても高い力士です。

今場所、親方の付人頭をしています。
部屋頭となった若中谷にいろんな経験を積ませたいという親方の想いです。両国国技館の地下の迷路のような通路を覚え、親方の荷物を持ち、審判部の部屋を行き来し、日々頑張っています。

9日目の取組では手をつかずに頭から土俵に落ちました。
綺麗に櫛の目のついた艶髪に、べったりと土がつきましたが、払うことなくそのまま勝ち名乗りを受けました。迷いなき闘志で3勝目の勝ち星を掴みました。
親方は若中谷を褒めました。
怖がらずに攻めたこと、
最後まで手をつかなかったこと、
分かっていてもなかなかできることじゃない、勇気がいることだよと語りました。
自己最高位でここまで3勝3敗の若中谷。

9月場所が終われば次は地元九州場所です。良い成績で胸を張って福岡に帰りたいという気持ちから、きっと緊張や重圧もあると思います。
それでも親方が「どうだ?」と翌日の相撲について問うと若中谷は「自分の相撲を取りきります」と静かに力強く答えていました。

稽古場でも大部屋での生活でも、誰が見ていても見ていなくても親方から言われたことをしっかりと守り、とても真面目です。
親方はその姿を無言でじっと見てきました。
入門から半年が経ちました。
親方からとても『信頼』される存在になりました。
今日今場所最後の一番です。
自分の相撲を信じてください。

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若松永(写真左)
ちゃんこ番では2班の副班長として班長の若野口の下に付いています。班長若野口が相撲があり部屋にいない時は副班長若松永がちゃんこ場を仕切り、ちゃんこの用意が出来たこと、片付けが終わったことなど親方へ報告に上がります。
「2班〇〇終わりました。自分が何々をして、誰々が〇〇をして、誰々が〇〇をしました。以上です!」「あ、あと誰々さんから〇〇が届いています。どこどこに置きました。」と、こちらが「それでどうしましたか?誰が何をしてくれましたか?」と質問しなくても全てしっかり自分から報告してくれます。
それは、報告に上がる時はこういう言い方に統一してほしい、と親方が一度口頭で言ったことを、しっかりと聴いていたからです。
若松永はとても聴く力があります。理解力もあります。物怖じせずハキハキと話せます。
まだ15歳だから出来なくても仕方ないと思っていたことでも、期待以上に頑張ってくれます。

稽古場でも急成長を見せていると親方は太鼓判を押します。最近では稽古場で兄弟子に勝つこともあるようです。
相撲初心者の15歳。
今場所は自分より体の大きな相手にも体当たりして押し負けませんでした。目の覚めるような電車道の相撲が何番もありました。
「強くなってきた」
親方は今場所若松永の相撲を見て何度もこう言います。
親元を離れて、地元の友達にも会えない中、本当によくやっていると思います。大阪からの大応援団の声援は遠く離れていても若松永にとって大きな支えになっていることでしょう。
只今、自己最高位で3勝3敗です。
実力がついてきたことに自信を持ってください。
14日目、最後の一番に勝ち越しをかけます。


若小菅(写真中央)
賢いです。
若小菅の御実家からお醤油が届きました。茨城県土浦市はお醤油のまちとしても有名だそうです。私がお醤油の瓶を箱から取り出し、「元禄元年1688年創業、、、」とラベルの文字を小声で読むと、横から若小菅が一言、
「江戸時代ですね」と。
18歳で、さらりとそう受け応えできる若小菅は知的だなと感心いたしました。
いろんな面を持っている面白い子で、まだまだ私は気付けていない若小菅の魅力がたくさんあると思っています。
例えば、若小菅がSNSで使用している背景写真の画像。
夕空にいくつもの雲が浮かんでいる写真です。
親方に「小菅くんが使ってるこの空の写真、綺麗だね」と携帯の画面を傾けました。
「どれ?」と覗き込む親方。
やけに長い時間、画像を見つめています。
そして、
「これはただの空じゃないよ。よく見て。雲が世界地図になってる。」と。
親方の言う通りでした。くっきりではないですが、一つ一つの雲が大陸を表し、なんとなく世界地図に見えます。そのなんとなくというところがこの写真の良さなのでしょう。
若小菅のことを自分はまだ真正面からしか見れていないなと痛感しました。親方は普段から若小菅の主張しない部分もよく見ています。私も、柔軟に、いろんな角度から見ていきたいと思いました。

11日目の取組は勝ちには繋がりませんでしたが、最高にしびれる相撲でした。押されても押されても絶対に諦めないという思いは会場のお客様にも伝わり、大きな拍手をいただきました。
親方からもすぐに「小菅、いい相撲だった」と連絡が入りました。
若小菅は勉強家で相撲をよく知っています。

「相撲がとてもいい。食べて食べて体が大きくなれば、この子は大勝ちするよ。」

私は親方が言ったこの言葉が耳から離れません。
今場所、今日残り一番、力を出し切ってください。


若藤岡(写真右)
場所中、蔵前駅から両国駅までの道のりで、失くし物をしてしまいました。
「自分の不注意で失くしてしまいました」
肩を落とし、そう報告する若藤岡に、親方は「そうか、次からは気をつけないとな」と怒ることなく言いました。
このやり取りがある前、私は蔵前駅に電話をしていました。
「部屋のお相撲さんが落し物をしたようなのですが届いていませんか?」と尋ねました。
駅長さんが教えてくださいました。
若いお相撲さんが血相を変えて、何度も尋ねてきたこと。汗をかきながら探し回っていたこと。
「こちらには届いてないですね」と言っても「ありがとうございました」と深く頭を下げて挨拶をしたこと。

そういった話をきき胸が痛みました。わざとではないですし不注意です。不注意は誰にでもあります。私も携帯電話や財布を失くした経験がありますので、若藤岡の焦る気持ちがよくわかります。

結局その日は同期や後輩皆んなで助け合い、事なきを得ました。

親方が怒らなかったこと、
仲間がすぐに助けてくれたこと、
それは若藤岡の日頃の行いです。
失敗はありますがわざとではないこと、いつも一生懸命で人が良い子です。きつい言葉遣いをしているのも見たことも聞いたこともありません。温厚です。そういう若藤岡の人柄の良さを皆知っているからです。
助けてもらったことで、若藤岡もまた、誰かが困った時に"助けてあげたい"気持ちが芽生えるでしょう。
ハプニングから学ぶことはとても大きいです。

今場所、苦戦しています。
親方にも何か変えた方が良いのか相談に来ました。親方はまだ今は"勝ち"に拘らなくていいことを長い時間をかけて若藤岡に説明していました。
「とても良いものを持っている。
まだ15歳、負けたっていい、このまま、教えた通りの相撲で大丈夫だ、力がつけばいずれ勝てる。」と言い切ります。
西岩部屋は、『西岩部屋新聞』というものを場所ごとに発行しています。
そこには親方から力士一人一人への言葉があり、若藤岡の欄にはいつも『天才肌、これからどう化けるか楽しみだ』と只ならぬ魅力を持っている力士だという親方からの最大の褒め言葉が綴られています。
今場所、残り一番も若藤岡らしい相撲を親方は期待しています。


この写真は親方が撮りました。
3人とも良い表情ですね。

皆んなが悔いなく、笑顔で秋場所を締め括れますよう、心より応援しています。