西岩部屋おかみさんブログ

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2023/03/26 透輝の里断髪式

ご報告が遅くなりましたが、大阪場所も無事千秋楽を迎えました。

これもひとえに皆様のお陰でございます。

有難うございます。

 

親方のブログ及びコラムでもお伝えいたしましたが、透輝の里が、先の令和五年三場所をもちまして引退する運びとなりました。

場所前に、「千秋楽の打上げパーティーは、透輝の里の断髪式も兼ねております。」と後援会の皆様にお便りでお知らせいたしましたところ、東京、名古屋、各地よりたくさんの方々が透輝の里の断髪式に駆けつけてくださいました。

浅草から福岡へ引っ越す当日に透輝の里に一目会いにと駆けつけてくださったご夫妻、高知から車で何時間もかけて来てくださった力士たちのご家族の皆様、お仕事のお休みをとってお越しくださいました方々、加えて、会場に綺麗なお花を送ってくださった方々、部屋のメールに餞の言葉を綴ってくださった皆様、いつもネットで応援してくださり最後まで温かい気持ちで透輝の里を応援してくださった皆様、心より御礼申し上げます。誠に有難うございました。

 

いつも気持ちの良い躍動感溢れる潔い相撲をとる透輝の里は、性格もそのままで、皆様に愛されるお相撲さんでした。

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透輝の里自身がとても明るく、しんみりするより笑顔で!という子ですし、皆も笑顔で見送ろうと決めていたのですが、式が始まり、まず最初に大粒の涙を流したのは、親方でした。

親方は透輝の里の断髪式に向けて、夜な夜な一生懸命心を込めて準備をしてまいりました。

私は、娘の卒園前行事、卒園式、卒園式後の謝恩会、小学校の入学準備と、浅草で留守を守りながら場所前場所中は娘に掛りきりでしたので、断髪式の準備は一手に親方が行っておりました。

そんな思いもあり、当日いろんなものが溢れ出したのでしょう。何週間もかけて書いた透輝の里の入門から今日までを綴った皆様へのご挨拶の言葉が、涙声で震え、何度も「すみません」と読めなくなり止まります。お相撲さんたちは親方の涙を見るのはこの日が初めてです。

私も、ここまで号泣する親方の姿を見るのは、6年前、若の里引退相撲で大銀杏に鋏が入った時以来でした。


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同じように、式の最中、涙が止まらなかったのは透輝の里のお母様です。

断髪式が始まる前に、「おかみさん!」と声を掛けてくださって「今日はこれもこれも鞄に入れてきました。」と中身を見せてくださいました。

相撲柄のハンカチと、その横には西岩部屋の浴衣地で手縫いしたティッシュケースが大切に綺麗に入っていました。

過去のブログにも残っていますが、数年前、西岩部屋皆んなで裁縫の練習を兼ねてティッシュケースを手縫いしました。

母の日に合わせて、お相撲さんたちがそれぞれ実家のお母様に送ったものです。

 

 

私にとって、透輝の里のお母様との思い出はたくさんありますが、最後にした長電話(多分2時間くらい?)が最高に楽しかったです!

もうあと一番相撲をとれば引退という三月場所の終盤。「ご家族で観に行かれるのですね」という会話から、5年間の思い出話に花が咲き、お互い気取ることなく関西弁で、たくさん笑いながら話しました。「決して真面目ではないけど良い子なんです。」でお互い大笑いしたり、お母様とはお友達として知り合いたかったなと思うほどでした。

親御様とのお付き合いも5年。私たち夫婦にとりまして大変勉強になり、貴重な時間でした。

 

 

断髪式が始まり、もう早速入鋏です。

お越しくださった皆様全員に鋏を入れて頂きました。お父様お母様、弟さん、妹さん、お世話になった先生方、地元のお友達、力士たち、力士たちのご家族の皆様、応援してくださった皆様、透輝の里はその全員から、チョキンという鋏の音と「お疲れ様」の言葉を涙を拭いながら受け取ります。

 

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親方のとめ鋏が入ります。

 

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お母様より花束贈呈です。

透輝の里は、西岩部屋では珍しくスカウトで入門した力士です。

当初お母様は全く相撲のことが分からず、戸惑いを見せていらっしゃいましたが、息子のためにと大相撲の世界のことを一つずつ覚え、今ではとても詳しくなられました。

コロナが流行り出した際には、すぐに何か力になりたいといち早く西岩部屋にたくさんの手縫いのマスクを送ってくださったいつも一生懸命な愛情深いお母様です。

 

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続いて、力士を代表して、同期の八女の里より花束が手渡されます。

透輝の里とは切磋琢磨し良い稽古相手でした。部屋では兄弟子として、お互いを補い合う関係で、尊重し合う良き仲間です。


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僭越ながら、私からも白い薔薇の花束を。

八女の里が渡した50本の花束と、この51本の花束。足して101本。

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透輝の里が積み上げた白星の数です。

たくさん頑張りました。

本当にお疲れ様でした。
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お父様お母様より、親方と私にもと大きな花束を一つずついただきました。

お母様は涙でもう話せないほどで。

お父様は、あとは任せてくださいといったような温かな笑顔で。

ご両親共に、こんな未熟な私共に深々と頭を下げてくださって、こちらも涙が止まりませんでした。

透輝の里は、お父様が働く職場で第二の人生を歩むことを自分自身で決めました。

西岩部屋の皆んなは透輝の里のことが大好きで、弟弟子たちの中は個別に食事に誘い引退を引き留めた子もいます。呼出しの正男が親身になって説得してくれた事もありました。何度か波を乗り越えましたが、もう二十歳です。自分の人生を自分で決めることに、最後は親方も私も西岩部屋の皆んなも、親御様も、明るく笑って応援しよう!という気持ちになりました。

 

 

 

 

角界に残るか、社会に飛び立つか、入門し頑張ってみてからでないと周りも自分も分かりませんが、その時が来るまで、相撲部屋でどう育てるか。

 

初代若乃花花田勝治さんの言葉を代々大切にしています。

 

『相撲部屋の役割とは、弟子を立派な人間に育て、そして社会に送り出すこと。』

 

礼儀、一般常識含め、どこへ出しても恥ずかしくない、人として立派な人間に育てる。

これが西岩部屋のモットーです。

 

透輝の里は、ちゃんこもとても上手になりましたし、大きな魚も捌けます。着物を本畳みするのも早く、裁縫もできるようになりました。

大人になるにつれ、人前での振る舞い方、礼儀作法もその意味から学んでまいりました。

人の心がとても良く分かる子で、こちらが何も言わなくとも最初から出来ていた事もありました。いただいた物はその辺に置いたままにせずすぐ高い場所に置くか自分のロッカーにしまう。置いたままにしている子を見たら「もらった物やろ?」と自分から注意していました。苦手なお菓子でもいただき物は気持ちを有難くいただく。立ち止まり人の目を見て、挨拶をする、お礼を述べる、謝る。

これらの点は15歳の入門時にはもう身についていました。ご家庭でお父様お母様が愛情を込めて厳しくお育てになられたのでしょう。

そして透輝の里は一度も嘘をついたことがありません。

部屋頭として、兄弟子として、人として、そこが一番立派だったと思います。

 

 

 

たくさんの方々にご入鋏いただき、お色直しでは親方が断髪式で着たタキシードを着て登場しました。

 

呼出し正男が、「東〜、若の〜里〜! 西〜、透輝の〜里〜!」と声高々に呼び上げ、行司木村一馬が「なおこの取組には、、、鮭茶漬けの永谷園、、、」と場内放送さながらに懸賞を読み上げ、お客様からも盛大な拍手をいただき、大盛り上がりでした。

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拍手が鳴り止み、透輝の里が金屏風を背に皆様にご挨拶をいたしましたが、その中のエピソードとして、「今日、中学の時のラグビー部の先生に久しぶりに会った際に、"変わったね。成長したね。"と言っていただきました。」という文言がありました。

 

やはり、相撲部屋に来て、楽でいい、ありのままの自分でいられる、だから楽しい、では成長には繋がらないと思います。

遊ぶ時は遊ぶ。実家から持ってきたりこちらで自分で購入したりして、気分転換としてスマホもゲームも漫画も外食も皆んな自由時間は自由に楽しんでいますが、基本的には西岩部屋は修行の場です。今まで怠けていた部分を直し、相撲を通して頑張る事を覚え、知識を身につけ、成長していける場であるよう努めています。

 

厳しかったけど、だから相撲だけでなく人としても成長できてよかった。

松永輝透くんと親御様、松永くんを応援してくださっている皆様にそう思って頂けましたら、この上なく幸いです。

 

 

どんなことがあっても、親方私、西岩部屋の皆んなは松永くんの味方です。

きっと素敵な人生を切り開く子だと思いますが、これから生きていればいろんなことがあります。自分が何か悪いことをしてしまった時、失敗した時、大変な時、最終的に困ったら必ず頼ってきてください。助けます。

松永くんを15歳からお預かりして20歳まで5年間。娘を育ててきた年数と同じですから、もう息子同然です。

 

断髪式は、寂しいことではありますが、嬉しい事でもあります。

師匠に対し、どんな事があっても背を向けずついてきてくれた証です。

「親方、皆さん、本当にお世話になりました。お父さんお母さん、ありがとう。」

と、最後にきちんと感謝を示す場が断髪式です。

 

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断髪式後は、一週間大阪の実家で休暇を過ごし、自動車教習所の試験がある為、また一旦部屋に戻ってまいりました。

運転免許くらいはプレゼントしたいという親方の計らいで、今、自動車免許取得に向けてラストスパートです。春休みで自動車教習所も混み合っていますが、その為まだ少しの間、部屋にいます。

皆様よかったら会いに来てくださいね!

 

アットホームな温かい断髪式となりました。

5年間、応援を賜りまして誠に有難うございました。

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