外は篠突く雨、
稽古場から次々と荷物が運び出されます。それぞれが地点に立ち、九州への荷出し作業です。
荷台のすぐそばから稽古場に向け、指示を出していました。
カメラを向けますこちらに気づき、震わす肩をすっと止め、作業に打ち込みます。
丁度、床山さんがいらしてくださっている時間帯で、若龍星は二階の大部屋で髷を結い直していただいております。
若松永は年長者の若龍星の代わりを担うかのように、自身が雨に濡れる位置を選んだのでしょう。
入門から一年半が経過し、覚えの早い若松永は、相撲部屋の仕事がだいたい分かるようになりました。
弟弟子も入り、どんどん責任ある仕事を任されるうちに、要領良く体が動き、加えて、持ち前の"お世話好き"、"思いやりある性格"も、随所に見られ、今やその存在は頼もしい限りです。
人間の一番美しい姿は一生懸命頑張っている姿です。
相撲の稽古も、部屋での仕事も、そして悩んでいる友に対する心の寄り添い方も、若松永が熱く一生懸命になったときは、部屋の空気が変わります。
部屋に元気を与えてくれる存在です。
お相撲さんたち一人一人について、親方は稽古とトレーニングを見て、私は生活態度を見て、報告し合い話し合いますが、若松永につきましては総合的に素質充分。無限の可能性を持っています。下半身の筋力は親方も唸るほどです。
まだ自分で自分の凄さに気付いていないところも多く、そこが純朴な魅力でもあります。
大掃除ではお風呂場を担当いたしました。
大丈夫だろうか、気分を悪くしているのでは?と何度か覗きにまいりましたほど、長い時間静かに黙々と掃除をしていました。
思えば、先日皆んなで近所を掃き掃除しましたときもそうでした。一箇所の溝の落ち葉を丁寧に掃いていました。そろそろ引き上げましょうと声を掛け、部屋に戻ります際、気になりその溝を見にまいりますと、塵一つ落ちておらず、それはそれは綺麗に掃除されていました。
"綺麗にしよう"という気持ちを持って、丁寧に掃いていたのだと思います。
今回も時間をかけてお風呂掃除をしてくれました。後で気付きましたが、天井までとても綺麗になっていました。
若藤岡に関しましては、相撲部屋に馴染めるだろうかと、最初、個人的にとても心配しておりました。
独特の雰囲気を持っていますし、自分の世界観を大切にしている子です。この子はこの部屋に合っているのだろうか。楽しめているだろうか。
いつもそう心配しながらここまでまいりましたが、
先日、皆んなからあるアンケートを受け取りました。
その文章の一部に思わず目が潤みました。
「入門して一年半、よくもったなぁと思います。
みんなに迷惑を掛けてばかりですが、来年も再来年もこの部屋にいれたらいいなと思いました。」
もっともっと何年でもいてください。
毎日毎日、何かが間違っているのではないか、この進み方で良いのか、と悩む日ばかりですが、このように思ってくれていることに心救われる思いです。
部屋の仲間たちの存在が大きいのだと思います。
15歳で入門した若藤岡は来月17歳。
九州場所中に誕生日を迎えます。
今のまま、自分らしさを大切に、実りある場所になりますよう祈っております。この部屋に来てくれてありがとう。
若鳥海(長野県長野市出身18歳)
若鳥海はトイレを、公輝は脱衣場を担当いたしました。
トイレ掃除はなかなか大変なのですが、こびりついた汚れの取り方なども、口頭で一度説明しただけで、よく聞き理解して、手を抜くことなく隅々まで綺麗にしてくれていました。
それぞれの持ち場が終わりましてからは、大部屋で扇風機を片付ける作業を手伝いました。
取り外し、洗って干した後はまた組み立てます。
早々と組み立てを終える若松永と若鳥海。あとはカバーを掛けて押入れにしまいます。
若鳥海が同期の公輝を心配そうに見つめます。
公輝、
どうやら羽根の取り付けが後ろ前です。
留めねじも逆向きでした。
がっくり肩を落とす公輝。
若鳥海と公輝は性格が全然違いますので、どんな会話で盛り上がるのかは想像もつきませんが、休日には二人でご飯に行ったりもしているようです。
洗濯機の内側や、台までしっかり拭いていました。
「砂が溜まっていたので」とのことでした。
こちらが頼んでいないところに気付いて自ら掃除したこと、自分の使うものではない、人の物までも綺麗に掃除してくれた思いやりに、こういうことが出来る子なんだなと新たな発見があり、心あたたまる思いでした。
親方は最後まで八女の里と若龍星、どちらを巡業に帯同させるかを迷っていました。
結果的に八女の里を連れて出たのですが、それは同時に、若龍星を部屋に残し、長にさせ、指揮を執らせてみようという試みであったようにも思います。
若龍星が一番先輩となった新体制の西岩部屋。
親方が居ないこの一ヶ月、若龍星がどう務めるか、期待と不安が入り交じる思いでしたが、本当によくやってくれました。何でも報告してくれたこと、それが一番良かったことです。
何一つ大きな問題なく過ごせましたことは、若龍星の統率力の賜物だと感心いたしました。
何度も書いていますように、指導力は抜群です。
以前、「何回教えても相手が聞いてくれない場合、間違えてしまう場合はどうしますか」という質問をしたところ、「自分は、教える事は苦ではないので何度でも教えます」と答えてくれました。
若龍星は、お相撲さんに向いている子だなとつくづく思います。
掃除は、大部屋を担当しましたが、電源を切って霜が解けて水浸しになった冷凍庫の中など、ほかの場所も気づく限り手を伸ばしてくれました。
皆んなに、「さあ、あとは玄関ですね」と言いますと、「自分、今手が空いてるのでやります」と、間髪入れずに自ら申し出てくれました。
弟弟子たちは、若龍星のそういうところを見てどう感じましたでしょうか。"自分がさせられなくて良かった"というよりも、"自分もこういう事が言える兄弟子になりたい"
きっと背中を見てそう思ったことでしょう。
先日、傘立ての傘が散乱していることに目が止まりましたので、あとで整理しようと思い、時間をおいてまた傘立てを見に行きますと、全てきちんとネームベルトも縛られ整頓されていました。
訊けば、若龍星がしてくれたとのこと。
親方が居ない期間、意識的に気を張って生活していたに違いありません。その意識に努力を感じます。
もっともっとこれから自分の色を出してくれることを期待いたします。
夜は、自宅階の和室で親方と八女の里の巡業先を確認です。地方ごとに色分けされたものから、色分け無しのピースに変えてみました。
最初に比べ、驚くほどの速さで完成いたしました。
これから、長い相撲人生、いつか皆んなも巡業に出ます。
巡業に出て、毎日の移動の際、たとえ疲れていても、頭に地図が入っているだけで、明日は海が見えるかな?バスに乗ってあの大きな橋を渡るのかな?と、きっと心豊かに楽しめます。
高校生にならずに、お相撲さんになったのです。
お相撲さんであることを楽しむ教養はたくさん身につけていきましょう。
いよいよ九州へ。
親方不在の中、よく頑張りました。