西岩部屋おかみさんブログ

大相撲西岩部屋の備忘録として利用しています。【公式twitter】https://twitter.com/nishiiwabeyaです。

雷が落ちました

6日目の夜から中日8日目の朝まで九州場所宿舎へ行ってまいりました。

久しぶりに会う力士たち。
皆んな元気です。
風邪もひいていないとのことで安堵いたしました。

7日目の昼下がり、
今夜は、皆んなで外食し、その帰りに近くのカフェでパンケーキを食べよう、それが後半戦へのさらなる元気に繋がれば、と親方と相談しながらお店を検索していたその時です。

親方が、力士たちの居る大部屋の異変に気付きました。
立ち上がり、大部屋へ向かいます。

次の瞬間、力士全員を注意する大声が聞こえてきました。

雷が落ちました。

普段滅多に大声を出すことのない親方が大声で注意しています。
相撲の敗戦で怒ることは一切ありません。一生懸命挑んだのなら、いいんだ、今はそれで。
"負けて覚える相撲かな"という言葉もあると力士一人一人を呼び、静かに諭します。

雷の原因は、風紀の乱れ、意識の低下です。
九州に来てから親方と力士たちとで決めた部屋の決まりがあったようです。それがその日は全員守られていなかったのです。

「九州に何しに来たんだ!
遊びに来たのか!
緩んでるんじゃないのか?」

空気は一変しました。
もちろん外食の話など何処かへ飛んで行きました。

部屋の力士たちの失態をこうしてブログに綴ることは本意ではありません。
完璧な人間などいないですし、誰にでも失敗はあります。

ブログに書き記しておきたいのはここからです。

その日の夜、土俵に明かりがついていました。
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親方に伝えました。
土俵に誰かいるみたい。
見て来ていいですか?
ゆっくり足を進めますと、一人で筋力トレーニングしている姿がありました。
黙々と汗を流しています。
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西岩部屋が出来てから、場所中の夜の筋力トレーニングは、この日の若中谷が初めてです。

彼なりの気合いの入れ直しのように見えました。

親方は見に行きませんでした。
私が伝えたことに「わかった」と一言静かに頷くのみでした。
土俵の明かりは、その後消灯時間ぎりぎりまでついていました。



ハッと昔を思い出し、私は携帯電話に残してあります若の里の新聞記事の写真を何十分もかけて探しました。
みつかりました。
著作権法に基づき、新聞記事をブログには載せられませんので、暈しをかけさせていただきます。)
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引退する2年前の九州場所前の記事です。
一般紙のスポーツ欄にカラー写真付きで大きく取り上げていただきました。
書かれている内容はこうでした。
"場所中であっても、若の里は福岡国際センターから戻り、2日に1度、九州宿舎の近くのジムで夜2時間トレーニングをする事を欠かさない、力士である限りできる努力は全てすると決めている"


この記事の2年後、39歳まで土俵を務めました。引退後、自身の部屋の建設中、着慣れないスーツにネクタイを締め、何度も学校や御実家へ出向き、口説き落とした可愛い自分の弟子が、自分の厳しい言葉に心を震わせ、頭で考えて、悩み、もっと努力できるのではないかと、トレーニングをした事に、親方はしみじみ感動していると思います。

部屋頭が動くと、部屋のみんなもきっと付いてきます。



現に、言い訳せずに「すみませんでした。」とひたすら謝る力士もいます。
次の朝、もう一度私にまで謝りに来た力士もいました。
皆んなそれぞれに緩んだ自分に鞭を打ち、向上しようと努めています。





最後にもう一枚、、、新聞記事を探している時に出てきた写真です。
福岡にゆかりのある王貞治さんの言葉だそうです。
感銘を受け、若の里が現役時代に九州場所の宿舎で書いたものです。

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皆んなが力を出し切り、千秋楽を清々しく迎えられますように。