西岩部屋おかみさんブログ

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お陰様で無事、後半戦へ

大相撲秋場所9日目、本日から後半戦に入りました。
東京は爽やかな快晴。

相撲を取り終えた西岩部屋の力士たちが、秋晴れの空の下、浴衣のたもとから小さなタオルを取り出し、時折額の汗を拭いながら部屋に帰ってまいります。

「ただ今、場所から戻りました」

皆んな本当に良い顔をしています。
勝った子の清々しい安堵の表情も
勝てなかった子の悔しい表情も
"一生懸命やりました"と顔に書いているかのように生き生きとしています。

場所中のお相撲さんは『主役』です。
とても輝いています。

今場所も無事に土俵を務めることができていますのは、支えてくださる方々のお陰でありますことを、心より感謝致します。




西岩部屋の力士たちへ
ものごとには、『表』と『裏』があります。
陰から主役を支える役割を持つかたを『裏方さん』と呼びます。
毎朝稽古をする部屋の土俵も、今あなたたちが立たせて頂いている本場所の土俵も、当たり前のようにそこにあるものではないということをいつも感じていてください。



場所前、土俵築きが行われました。
呼出さんたちが土俵を作り直してくださいます。
自分たちの部屋に呼出さんがいない場合は、同門の呼出さんたちが来てくださいます。
まだまだ残暑の厳しい日でした。
呼出さんたちに習って力士たちも汗を流しました。

(8月25日の写真です)
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一門は親戚関係のように助け合います。
代々受け継がれた知識を後世にもまた受け継いでゆくのです。
今回お越しくださいました
佐渡ヶ嶽部屋の琴三さん、
田子ノ浦部屋の光昭さん、
峰崎部屋の弘行さん、
ありがとうございました。

綺麗に整えられた土俵を、行司さんが清めてくださいます。
大きく立派な榊を両手で大事に下から抱えてやって来てくださいましたそのお姿は、凛と美しく神々しい様でございました。
田子ノ浦部屋の隆男さん、
今回もありがとうございました。



そして、9月8日の秋場所前日の朝、
両国国技館本場所の土俵におきましても土俵祭りが行われました。本場所の土俵祭りは、毎場所無料で一般公開されています。
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何日もかけて土俵が完成致します。
場所前にはこうして土にも命が吹き込まれ、土俵は神聖な空気に包まれます。
何事も、その意味や過程を知ることにより崇敬の念を抱けるということを実感いたしました。
許された者だけが立てる場所だということがよく解ります。

土俵祭り終了後は足早に国技館を去り、部屋に戻りました。
皆で稽古場に並んで立ちます。
呼出さんによります触れ太鼓をお迎えしました。
各部屋各所を回ってきてくださる触れ太鼓。
"明日から本場所が始まりますよ"というお知らせです。
1歳の娘に優しい笑顔をくださったのは峰崎部屋の弘行さんです。ありがとうございました。

行司さん、
呼出さん、
そして、裏方さんといえば床山さんの存在もまた大きな支えになっています。
西岩部屋では若佐竹と若野口が床山さんにお世話になっています。二人の髷を結いに部屋まで来てくださっているのは、片男波部屋の床真さんです。

場所前のある日、いつものように髷を結いに来てくださった床真さんに何気なくお声掛けさせていただきました。

「今日は雨ですね。ここまでお車でいらっしゃったのですか?」
「いえ、自転車です。」
「濡れましたのでは...」
「カッパ着て漕いできました。」

驚きと申し訳なさで目が点になりました。
床真さんの御自宅から西岩部屋までは4キロから5キロはあります。
若佐竹と若野口はまだまだ若い力士です。雨の中、カッパを着て、彼らの髷を結うために西岩部屋まで来てくださるのです。
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この時、私には悩み事がありました。
普段から力士たちには、「遠くのコインランドリーなどに行く際でも自転車、もしくは歩いて行くこと」「タクシーは使わないこと」と言っています。
ですが理由なき決まり事は説得性がありません。
自分で働いて得たお金です。タクシーを使うことはまだ早過ぎるのではないかということをどう説明してよいか分からず頭を抱えていました。

床真さんの行動から、『謙虚な気持ち』を学びました。
慎ましく控えめなこと、
自分を偉い者と思わないこと、

若い力士の髷を結うために、何歳も年上の先輩が、雨の中自転車を漕いで来てくださっているのです。西岩部屋の力士たちはまだまだ贅沢はできないという答えはここにありました。
床真さん、ありがとうございます。

力士は裏方さんたちにいつも支えられています。
謙虚な気持ちを忘れずにいてください。



怪我をしないよう土俵を作ってくださいました。
土俵に神様を宿してくださいました。
立派な髷を結ってくださいました。
入って間もない若いお相撲さんでも、土俵に上がれば、その間自分が主役です。
千秋楽まで、自信を持って戦い抜いてください。